今日、高校時代の友人、彩子が結婚した。
再会 一章
華やかな2人らしく、披露宴もパーティ形式で行なわれ、は高校時代の友人達に囲まれていた。
みなそれぞれ、同窓会のような気分になり。
お決まりのように、世帯をもった者たちはに尋ねる。
「まだ結婚していないの?」 「どうしてしないの?」
もう何度目になるだろうそれに、さすがにのポーカーフェイスも限界を迎える。
・・・・・悪気は無いんだろうけど・・・・・・挨拶の代わりに聞くのは止めて欲しい・・・・・・
化粧室にいくと言い残し、はそこから離れた。
式は順調に進み、彩子がブーケを投げ。
彩子もリョータも、同級生の友人は、そんなに多くは無い。
やはり、一緒に全国を目指した彼らが、一番の友人なのだ。
同級生達はそのまま同窓会へと姿を消し、彩子の親友であったは、元バスケ部員達と一緒に2次会の会場へ向かう。
後輩の晴子と一緒に、さっき式で見た、久しぶりの彩子について話していた。
晴子:「彩子さん、ホント綺麗だった〜♪ いいなぁ、私も結婚したくなっちゃいました…」
:「ふふっ。 で、アイツもうプロポーズしたの??」
アイツ事、晴子の婚約者、桜木花道は。
久しぶりに会った三井と、ガンの飛ばし合いをしている。
はあ、と溜息をつきながらも、晴子は頬をそめ、に耳打ちした。
晴子:「………実は来週、家に来る事になってるんです…。 やっとお兄ちゃん、認めてくれて………」
晴子の兄は最初、大事な可愛い妹を、あんな奴には渡せないと言って、何度もプチ家出をしたぐらいだ。
しかし、桜木の 「ダンコたる決意」 とかいうものが固く、晴子もまた桜木の純粋さに惚れてしまい。
周りからの説得もあって、結局認める事となったらしい。
まあ、「お兄ちゃんが認めてくれないなら、私一生結婚しない」と言った、晴子の言葉が一番こたえたようだが・・・。
真っ赤になりながらも桜木を 「花道」 と呼ぶ晴子に、は少し、寂しいような気持ちになった。
桜木:「ああっ!!! サンではありませんかっ! …今日も素敵ですネ(小声)」
意外と独占欲の強い晴子は、桜木が他の女の子を褒めるのを嫌う。
大きな体を丸めモジモジする桜木に、は小声で、ありがとう、とつぶやき。
:「やるじゃない、桜木! 彩子の次は、晴子ちゃんが花嫁さんだねv」
彩子が気を使っての方に投げたブーケは。
に背中を押された晴子が、無事受け取ったのだ。
桜木:「は、はいっ! ハルコさんはこのオレが、幸せにしまっす!!!!!!」
晴子:「もう…、恥ずかしいわ、花道君……」
あの頃はあんなに問題児だと心配されていた桜木が、いよいよ世帯を持つ。
まるで母親のように嬉しい反面心配な、何とも微妙な気持ちになっていた。
突然肩を叩かれ、驚いて振り向けば・・・・・・
三井:「よー、」
:「久しぶりって言いたいけど、最近会ったわよね」
というのも、先週の友人がもってきた、教師との合コンで、2人は再会していたのだ。
は化粧品会社に就職し、その後プロのメイクアップアーティストとなっている。
驚いたのは三井で、彼は体育教師になり、母校である中学校で教えていた。
三井:「ま、その話は後でいいじゃねーか。 つーかよ、このオレ様が、リョータなんかに先越されるなんて思いもしなかったぜ」
そう思うのは三井だけで。
達にしてみれば、やっとかよと言うほど、結婚までが長かった。
:「あれから8年経ってるもんね。 あ、そう言えば赤木サンは?」
高校時代から、彼らの仲を、密かに応援していた赤木である。
いないはずがないと、三井も辺りを見まわすが、どこにも見えない。
晴子に聞いても、薄笑いを浮かべるだけで、何も答えなかった。
2次会はやはり、居酒屋で。
大きな座敷を借りて、まだ目を潤ませた赤木が音頭をとる。
桜木:「いいぞーーーっ!! ゴリっ!!!」
リョータ:「ダンナ、一発頼みますよっ!!」
ウホンと咳払いし、ビールの杯をかかげ、赤木は叫ぶ。
赤木:「えーっ、長かった冬が終わりを告げ…やっと春が……」
一同:「「「 かんぱーーーーーいっ!!!!!!」」」
やはりそうくるかと、諦めたように赤木が座りこむ。
隣に座った晴子にビールを勧められ、一気に飲み干した。
赤木:「……晴子…。 兄ちゃんなぁ、お前が…、お前が嫁になんて行ったら…」
グスグスと鼻をすすり、赤木は泣きはじめる。
涙に誘われ、晴子も一緒に泣きはじめ、あーよしよしと桜木がなだめた。
:「なんだかんだ言ってもさ、結構上手くやってけそうじゃない?」
彩子:「そーよねー。 ま、あたし達には負けるけどさv」
早速酒に酔った彩子が、のろけをはじめる。
オレも!とばかりに走り寄ったリョータは、桜木と三井の手でもみくちゃにされていた。
彩子:「ね、。 あんたさぁ、どうしてアイツと別れたのよ? 何年も付き合ってたんだから、結婚の話もあったでしょう?」
彩子はずっと聞きたくて、でも聞けなかった。
自分も人の事は言えないと思っていたから。
でも、彩子は今日、結婚したのだ。
彩子:「あんたがさ、仕事熱心で、自分の夢とか持ってたのは知ってる。
頑張ったからこそ、今のあんたがあるのも、分かってるわよ? でもさ………」
同級生にも何度も聞かれ、は笑顔で誤魔化してきたが。
彩子相手では、さすがに笑って誤魔化す事もできない。
:「……彩子さ、今のアイツ見てどう思う?」
が視線を送ったのは、リョータと戯れる、三井。
高校を卒業してから付き合い始めた彩子達よりも、2年も前に、と三井は付き合い始めていた。
しかし、三井が大学を卒業する頃、2人は別れてしまったのだ。
彩子はそっと三井をうかがい、そして言った。
彩子:「……どうって、…そうね、夢・実現って感じ?」
その言葉に、は微笑む。
念願の教師になった三井は、高校時代と同じぐらい、輝いて見えた。
:「そう、そんな感じ。 でもさ、大学時代のアイツ、最低だった」
大学に入ったものの、自分の将来が見えず、三井はただ毎日過ごしているだけだった。
中学MVPと騒がれても、やはり三井より上のレベルは、いくらでも存在したから。
そんな頃、流川の活躍が、更に目覚しいものとなり。
三井はバスケを捨てた。
:「私と一緒にいるとね、いつも高校の頃を思い出してたみたい。 でもさ、それじゃ前に進めないじゃない? ……私にも、夢があったから」
そんな三井を包みこめるほど、には時間も余裕も無かった。
何とか繋ぎ止めようと、結婚の話を持ち出した三井に、は別れを告げたのだ。
じっと静かに、と三井を見ていた彩子が、少し考えるような表情で言う。
彩子:「。 あんたも三井も、自分の生き方が決まったんじゃない。 昔はダメだったとしても、今なら……」
彩子を遮ったは、水滴を垂らすグラスを手に取る。
ゆっくりと味わうように一口飲み・・・・・・・・・。
その横顔は、彩子が見惚れてしまうほどの、大人の色気と・・・・・憂いがあった。
2人は、支えあってしか生きていけない人間だった。
それはきっと、今も変わらないとは思う。
合コンで再会し、は確信を持ったのだ。
:「無理。 生きる道が違いすぎる。 彩子、何かを諦めて、別の何かを手にした人間と、何の障害もなく、夢を手にした人間が、
何のこだわりもなく、生きて行けると思う?」
絶対に無理だ、とはも言い切ることはできない。
だが、自分たちには無理だったと思うのだ。
どうあっても、修復は不可能だと言うに、彩子は溜息をつく。
には幸せになってもらいたいと、心から思っているのに。
ゴメン、タバコ吸ってくると、は席を立った。
外はもう、真っ暗で。
12月の夜中の風は、身も心も、凍らせてしまうようだ。
:「………さぶっ」
コートの前をかき合わせ、はコンビニから出た。
みんなにはまだ内緒にしてあるが、妊婦である彩子のそばでタバコを吸うわけにはいかず。
はあったかいコーヒーを買うと、自販機から少し歩き、シャッターの閉まった繁華街で、小さな溜息をついた。
この間は本当に偶然だったので、驚きばかりで辛さは感じなかった。
でも、今日は確実に会う事が分かっていた分、心の奥にあるシコリのようなものが疼いて仕方がない。
今でも三井を愛しているかと聞かれれば・・・・・・・・・。
・・・・・・自分でも分からないのよね・・・。
2本目のタバコが灰に変わる頃。
すっと首に柔かい布を感じた。
:「……流川君。 あ、ゴメン」
スポーツマンにタバコは毒だと、は急いで携帯灰皿に火を押しつける。
ポケットにしまった時、首に巻かれたのが流川のマフラーだと気づいた。
:「コレ、ありがとね。……寒くないの?」
コートも持たず、マフラーだけを持って、そのまま出てきた流川。
何も答えない流川に、は手を温める為に買ったコーヒーを、そっと手に握らせた。
流川:「……あちぃ…」
そんなに熱かったかと、驚いて流川の表情を見て、は気付いた。
………酔ってるから熱いんじゃん。
無礼講、とばかりに、大量に飲まされたらしい。
酔い冷ましの為に来たのかと問えば、首を横にふる。
高校時代、流川と直接は関わりのなかっただが、三井と付き合っていた事もあり、何度か話した事はある。
元々無愛想なのが、酔って更にそうなったのかと、簡単に片付け、はポリバケツの上から腰を上げた。
流川:「……いつから吸ってる?」
歩き出したの、背中ごしに聞こえた声に、はコイツも女はタバコを吸うなというタイプかと、振り返らずに歩き出した。
少し遅れて聞こえる足音に、流川がついてきているのを確認する。
グッとマフラーを引っ張られ、は仕方なく立ち止まる。
流川:「………いつから?……」
聞きたい事は何があっても聞く、それが流川。
さすが酔っ払いだと、も仕方なく答えた。
:「……3、4年前かな。 もう、忘れちゃったよ」
本当は覚えている。
三井と別れた頃からだ。
流川:「……何で……けむいだけだ…」
は振り返り、気だるそうに、迷惑そうにつぶやいた。
:「……口寂しいのよ、多分」
吸っているタバコの年数だけ、は誰ともキスをしていない。
高校時代、人目もはばからずに三井とキスをしていたが、だ。
もういいでしょうと、は歩き出す。
きっかけなんて忘れた。
ただ、いつまでも身にまとわりつく三井の香りが、吸っている間は、煙で消え去ってくれるような気がして。
いつのまにか、手放せなくなっていた。
と流川が戻るとすぐに、彩子達は帰り支度をはじめた。
リョータ:「ごめんね、ちゃん。 彩子、疲れたみたいでさ」
おなかの子供に気を使い、ずっと酒を断っていたのだが。
うふふと笑う彩子を支え、リョータは桜木にタクシーを呼びに行かせた。
彩子:「うふふふふふ、〜、あんた今日は流川のおもりねv」
は?と目を見開き、聞き返すに、リョータが耳打ちする。
リョータ:「何か話、聞いてもらいたいみたいでさぁ。 悪いけどさ、お願い!」
手を合わせて頼まれ、もしぶしぶ頷く。
酔っ払い軍団と化した三井達と一緒に、3次会へ突入するよりは、少しはマシだろう。
ほのぼのと笑顔を振り撒いている木暮を呼びとめ、は先に帰るからと伝える。
レジで清算していた赤木が出ていき、少し時間をあけ、は流川と共に、外へ出た。
:「……で、何?」
少し冷たいように響いたそれにも、流川は表情を崩すことはなく。
腹が減ったと、を連れ、駅近くの自分の部屋へ案内した。
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